あの曲をあの人の声で聞いてみたいシリーズその①(まちおん連載11回目)
さぁて、今回のお題も相当に難題だ。「あの曲をあの人の声で聞いてみたい」ということなのだが、オリジナルを歌っている人よりも、上手く歌えるというのはもはや別の曲として再解釈して再提示する力を持っているアーティストじゃなきゃ駄目なわけで、しかも、すでにその手のアルバムは沢山出ていて(特に徳永英明の『VOCALIST』など)、実際に歌っていないが、歌ってもらいたいという人はそうそうみつからない・・・と思っていたのだが、ふと思い出した。
僕は和田アキ子の声が大好きだ。たっぷりと息を使ったボーカルは、ピアノからフォルテまでよく響く。でも、できればバラードのような優しい歌ではなく、激しい歌が好きだ。ソウルフルで、力強くて、ノリも最高に良くアリサ・フランクリンが亡くなった今、世界で最もソウルフルでパワフルな女性ボーカリストとだとも思う。
そして、もう一つ。和田アキ子というと「芸能界のご意見番」という誰がつけたかわからない評価がついてまわる。日本の歪んだジェンダー観の被害者でありながら、テレビの前で孤独にその歪んだジェンダー観を半ば道化として演じ続けた和田アキ子を人間としてもとても尊敬する。僕自身、ブラウン管に映った和田アキ子の容姿をいじる番組を普通に観て笑ってきた。今考えると恥ずかしい行為だと思う。彼女は今日に至るまで、どれだけの有形無形のハラスメントを受けただろうか。もうさすがに表だって和田アキ子の容姿を揶揄することはテレビではなくなったけれど、でも時折必要以上のオーバーな表現で和田アキ子が時代を超えて液晶テレビの中でいじられるのを観るのは辛い。
それで思いだしたのだが、以前サンボマスターが和田アキ子のヒット曲「あの鐘を鳴らすのはあなた」をカバーしていたことがあって、これがしびれるほどかっこ良かった。
・サンボマスター公式「あの鐘を鳴らすのはあなた」
サンボマスターに和田アキ子のソウルフルな名曲の数々(「古い日記」や「タイガー & ドラゴン」)も歌ってもらうのも面白そうなのだが、今度は逆にサンボマスターの名曲を和田アキ子が歌うというのはどうだろうか。「青春狂騒曲」「そのぬくもりに用がある」もぜひ聴いてみたいが、一番聴きたいのは「あなたが人を裏切るなら僕は誰かを殺してしまったさ」だ。
この曲の歌詞はこうだ。
今までの過去全てを僕に話して
天国行きのバスなら乗らずに見送って
あなたが人を裏切るなら
僕は誰かを殺してしまったさ
よこしまな僕は
やはり君の涙を美しく思うの
よこしまなよこしまな僕は
やはり君の思い出を
美しくしてるの
これまでのこれまでの
夜をつなぎ合わせて
それを過去と言うならば
愛しき君よ
僕は君にその夜の星空の光だけを
見上げていて欲しいのだ
サンボマスター「あなたが人を裏切るなら僕は誰かを殺してしまったさ」
・サンボマスター公式「あなたが人を裏切るなら僕は誰かを殺してしまったさ」
サンボマスターのこの曲は、「赦し」がつまっている歌だと思う。そして、この曲を救いと赦しをパワフルに歌える女性は、和田アキ子だけじゃないかと思う。