最近見た聞いた音楽CDまたはDVDのレビューその①(まちおん連載10回目)
最近聴いたアルバムでストロングリピートしているのは、上原ひろみ(2021)『Silver Lining Suite』。今年の9月に発売された上原ひろみの最新作だ。
今回のアルバムでは弦楽4重奏団と組んだ作品。収録曲全9曲のうち、冒頭の4曲が「Silver Lining Suite」(すごくベタな訳をすると「シルヴァー・ライニング組曲」)である。またこのアルバムには参加する弦楽四重奏団は、新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサート・マスターである西江辰郎を中心とするもので、上原ひろみの躍動感あるピアノをさらに強める大きな力になっている。
- Silver Lining Suite: Isolation
- Silver Lining Suite: The Unknown
- Silver Lining Suite: Drifters
- Silver Lining Suite: Fortitude
- Uncertainty
- Someday
- Jumpstart
- 11:49 PM
- Ribera Del Duero
(弦楽四重奏の担当は、第一バイオリン西江辰郎、第二バイオリンビルマン聡平、ビオラ中恵菜、チェロ向井航)
このアルバムの帯書きには「一筋の光を信じて、音楽は決して止まらない。」とある。このアルバムについて上原はコロナ禍の中で、自らの心情をこれらの楽曲に投影したことをARBANのインタビューで答えている。
収録曲のうち「11:49 PM」については、ブルーノート東京でのライブ映像がYoutubeで公開されている。
こちらを観ていただくとわかるのだが、弦楽4重奏の厚いハーモニーから(特に冒頭のチェロと上原のピアノの掛け合いが身震いする)、上原のピアノソロ、そしてまた弦楽四重奏につながる一連の全ての音に緊張感があり、そして光がある。「11:49 PM」も、演奏時間約11分の後にやってくる「明日」に向けられて時に小さく、時に大きくエネルギーがうねる。それは生への一筋の「希望」のようでもある。
ライブ映像では、この繊細な曲をどのプレイヤーがとても楽しそうに演奏しており「計算され尽くしているけれども、その中で十分にそれぞれのプレイヤーが音楽を味わっている」様が見て取れる。
このコロナ禍の中、多くの音楽家、音大生、音楽を生業とすることを志した人々はもちろん、音楽に関係のない生活を送る全ての人もまた大きな苦しみの中にある。でも、上原ひろみの弾くピアノは、一筋の光を放ち、我々を明日へと連れて行ってくれるだろう。
上原ひろみのピアノの持つ力を僕は信じる。