『タッチ・オブ・スパイス』

なんだかなぁという一日。

朝目が覚めて、いつものように愛用の富士通LOOXを立ち上げると、黒板を爪でひっかいたような音がして、ハードディスクが昇天する。去年の10月に評判の悪い富士通製からIBM製へと換装したばかりだったのに・・・。データがすべて死んでしまい、ただただ泣く。これが不思議と勤務先から、自社製品が支給されることを聞いたばかりだったので、タイミング的にはちょうどよかったのかもしれない。なんだかすべてが就職に向かって流れていくんだなぁ。
しかしなんだかんだいって、死んだままにしておくわけにもいかず、HDを探しに新宿に向かう。だが、流体軸受けで手頃な製品が見つからず、またこれはこれでへこんでしまい、そのまま帰る気分にもなれず、スタバで数時間粘って本を読む。

ううむ。

ついでもって最近つるむことが多い高校の同期Aさんと渋谷で待ち合わせして、ギリシャ映画『A Touch of Spice(邦題:タッチ・オブ・スパイス)』をBunkamuraのル・シネマで観る。(こうやって書きながら、「あシネマって男性名詞だ」とひさしぶりに思い出す<バカだなぁ)

で、これまでギリシャ映画と縁遠かったのだが、これはとてもすばらしかった。キプロスをめぐるギリシャとトルコの対立といった国際関係を背景にしながら、スパイスを通して人生について考えさせる映画。天文学者となる孫と香辛料店を営む祖父のやりとりは、優しいけれどもとても哲学的。
「料理の味を決めるスパイスが目に見えないように、大切なものはいつも目に見えない」
なんて台詞、粋すぎて涙が出る。人生経験を経た香辛料店主の祖父の言葉は一つ一つが哲学的で、えらいことスパイスが効いている。
また将来天文学者となる孫に香辛料を使って宇宙を教えるのも素敵。太陽をペッパー、金星をシナモン、地球を塩にたとえる。その理由も「金星は女神(Venus)だろ?だから、甘くほろ苦いシナモンなのだ」という例え。
そもそも映画の台詞を背景を抜きにしてタイプすると陳腐になってしまうんだけれど、これをしぶいおじいちゃんが言うんだな。うちのじいさんもだったけれど、歳を重ねた人の言葉は重い。人生のスパイスが円熟しているんだろう。

一つ一つのシーンのカットもとても美しく、コンスタンチノーブルも最後の別れのシーンも美しかった。Aさんのリクエストで見に行った映画だったのだけれど、誰かと映画を見に行くと自分のまったく知らないソースから映画の情報とかが入ってくるので、いろいろと発見が多い。とても満足した時間、幸せな時間を過ごす。

・・・が、映画終了後にロビーにでたとき、突然腕に激痛が走る。今までも自宅で腕に激痛がはしることはあったのだが、今日は初めて人前で倒れてしまう。しばらくソファーで横になりながら、Aさんや映画館の支配人に心配されてしまう。
情けないやら、哀しいやらでこれもかなりへこむ。これじゃ女性も口説けない。