近代法制度におけるマイノリティの固有法と法化現象(研究課題番号:24730011)

平成24年度文科省科学研究費補助金[若手研究(B)](平成24年度〜平成27年度)課題番号24730011「近代法制度におけるマイノリティの固有法と法化現象」研究代表者

科研費研究では、更に「発展途上国」という枠を超え、先進国のマイノリティについても考察を行っています。
マイノリティによる法制度の構築・運営について、(1)マイノリティの伝統的な婚姻制度がタイ及びアメリカの近代法制度とどのように共存し、または互いに牽制しているのか、(2)マイノリティの固有法がどのような形で近代法制度と共存しているのか、という2点を基に、「法化」概念をベースとした理論的考察とフィールドワークによる実証分析を行いました。
フィールドワークの調査対象として,モン族(HMONG,中国名:苗族[ミヤオ,MIAO])のうちタイ山間部に居住するコミュニティ2箇所,アメリカ合衆国ミネソタに移住したコミュニティ1箇所,合計3箇所を選定し,それぞれのコミュニティでの比較を通して上記の問いに答えようとしました。
理論的な落としどころとしては次の通りです。
まず、世界規模で生じているマイノリティの権利問題について、「人権」の保障が一国家内で進むことが「マイノリティの権利」を奪いかねない状況が多々生じているという状況が生じています。またそうした状況を解明するために、「法化」現象の解明を通して、その問題に応えることができると考えています。
その手掛かりとしてトイプナーの「法化」を元にして、本研究が「法化」をめぐる多くの先行研究の中で「法の実質化」説に立つことを示し、更にハーバマスの「法化」論を踏まえた上で,マイノリティが近代法制度に参加できなくなっている要件について論じようとしています。
また、難民の移住によって生じたモン族のネットワークを通して、様々なコミュニケーション手段を用いて、どのように判断の基準となる情報入手を可能としまた住民運動を形成したかについて調査を進めてきました。特に他の山地民と異なり、亡命した親戚の存在と、インターネットがモン語の使用と親和性が高かったことが,ナーン県で生じたモン族による社会運動の発生に大きな影響を与えたことを調査しました。
加えて、旧来行われていた伝統的リーダーによる村内での紛争処理は伝統的リーダーの地位の低下に伴い、郡長(ナーイアムプー)というタイの公的立場にある人物によって解消されていく事例を発掘しました。それはタイ政府から一方的にモン族の伝統的な紛争処理が奪われるという形で行われるのではなく、山地民がタイ国の法制度という新しい環境へと自らの紛争処理システムを戦略的に適応させていった過程として示しました。
また成熟した法制度と法体系を有するアメリカに移住したモン族のコミュニティ内部で、アメリカでは違法となる誘拐婚(kidnapping marriage)が実施されていた2つの事例を紹介しその意味について論じました。ホスト国が強固な近代法体系を有しているゆえに難民として移り住んだモン族が自らの固有法を守るために秘密裏に誘拐婚を実施しました。その結果モン族の内部でも更に弱者として位置づけられる女性への人権侵害が生じていることを指摘しました。
近代化のさなかにあるマイノリティによる法化現象を解明することは、単にその対象が未踏の研究領域であるからだけではなく、先進国の法化現象発生メカニズムの解明にも有効であると考えています。

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