発展途上国における法化現象の研究(研究課題番号:21730014)

平成21年度文科省科学研究費補助金[若手研究(B)](平成21年度〜平成23年度)課題番号21730014「発展途上国における法化現象の研究」研究代表者

少数民族の意志反映が十分に可能となる法制度の構築・運営についてフィールドワークを元にして考察しました。事例としてはタイ山間部に居住する山地民のモン族をとりあげ、タイの司法制度に依拠しない伝統的な紛争処理制度が近代司法制度と共存している実態をフィールドワーク調査で明らかにしました。

例えば、タイの国内法では重婚や17歳以下での結婚が禁止されています。また離婚の際の財産分与と子供の親権に関する規定があります。ですが、複婚(法律学でいう「重婚」とは概念が少し異なります)を行うモン族の中では、複婚を行っている事例、17歳以下のが現在でも散見されます。そう彼らはあえてタイ法を使わないことで、自らの慣習を保持しているのです。するとここには法整備が進みつつある発展途上国の中で、「個人の権利を守るために生まれた法をあえて使わない」というパラドキシカルな状況が生まれていることに気付きます。日本の法社会学者が、民法の家族法が実際には民法制定者が想定したとおりの状況下で使われていなかった状況を丹念なフィールドワークで描き出したのとおなじ状況がタイでも生まれています。

さらに注目すべきなのは、山地民が大法を利用しない理由を説明する際に、「無知だから利用しない」ということではなく、彼らは近代法を利用するメリットとデメリットを踏まえた上で「あえて使用しない」という手段を選択しているという事実です。こういった現象を説明するに当たって、教育学・女性学・開発学といった様々なアプローチがありうると思うのですが、「法化」という概念を用いて説明しようと考えました。「法化」とは ルーマンやトイプナーなどによって紹介されるようになった概念の一つですが、簡単に言えば「法が氾濫することによって、私たちの生活に様々な問題が生じている状態」ということができるでしょうか。

特に発展途上国各国では福祉国家という枠組みの中で法によってしか保障されない人権が、法が生活に介入しマイノリティ/マジョリティの区分が曖昧化することによって逆にマイノリティの権利が踏みにじられるという現象が生じています。そうした発展途上国では、マイノリティがマジョリティの法制度に飲み込まれざる得ないという状況はあっても逆のケースはありません。

本研究の成果として、これまであまり目が向けられていなかった発展途上国、さらにマイノリティの間で生じている法化現象について記すことができたと考えています。

PAGE TOP