平成27年度独立行政法人国立高等専門学校機構在外研究員制度による派遣

平成27年度独立行政法人国立高等専門学校機構在外研究員制度による派遣

タイにある泰日工業大学(Thai Nichi Institute of Technology)に、2015年4月から2016年3月までの期間、客員教授として赴任していました。

申請理由

急激な経済発展を遂げるASEAN諸国は、高専にやってくる留学生の主要な出身エリアの一つである。またそれと同時に日本国内拠点工場が次々に移動されつつあり、日本人学生にとっても未来の就職場所の一つとなっている。

申請者はかねがね、日本の知的財産教育がカリキュラムとして成熟されたものになっていないことを国際会議や論文で指摘していたが、ASEAN諸国では、知財教育に関して(実際に調査した中ではシンガポール、マレーシア、台湾が顕著であるが)技術移転を前提とした工業立国を目指し、体系的な指導を工業系大学・ポリテクニックで行っている。今後世界規模で通用する人材の育成を目的とする我が高専においても、当然こうした潮流を踏まえることは重要である。今回泰日工業大学を希望したのは、泰日技術振興協会が設立した本大学であれば、ASEAN諸国の中でも日本からの工場移転が多いタイにおいて、ASEANスタンダードな知財能力を理解するにふさわしいと考えるからである。
また当方はタイ語に堪能であり、タイに関する論文で博士号も取得しており、社会情勢に明るく現地スタッフとのコミュニケーションもとりやすい。加えて滞在中にシンガポール、インドネシア、ラオス、ベトナムの事情調査を行う際にもASEANの中心に位置するタイからであれば移動がしやすく、ASEAN各国の事情を理解するのにも利便性が高い。

内容 ASEAN各国における知的財産権教育の実情調査について

現在高専では、ASEAN各国から多くの留学生が学んでいる。これらの学生の母国には多くの日系企業が進出しており、帰国した留学生達は旧来の日本国内工場の技術移転に携わることになる。また近年では、商品開発そのものが、それぞれの国々の工場内で行われることも普通となっている。

こうした技術移転・商品開発については、特許・意匠・商標といったいわゆる知的財産権(以下「知財」)の知識が必要になる。高専を卒業し本国に戻った留学生達は、企業内にて高専で学んだ技術を生かすだけでなく、知財管理についてもその手腕を振るうことになり、また相応の知識が必要となると考えられる。また同時に日本人学生のうちでも、海外の工場で働く卒業生が増加することが見込まれ、グローバルな知財の知識が必須となる。

しかしながら、2002に日本は「知財立国宣言」を行ってはいるものの、特に教育面において立ち後れが指摘されており、日本の教育機関における知財教育については、留学生だけでなく日本人の学生にも十分な教育内容が提供されているとは言いがたい(妹尾 2010)。特に(吉井 2012)で指摘したとおり、高専の知財教育は体系化が不十分であり、カリキュラムが十分に整備されておらず指導する教員の主観的な立場からの授業が展開されるのみである。これは発想法・問題解決技法などを積極的にカリキュラムにとりいる台湾・シンガポール・タイの教育機関と比して、日本はその水準に追いついてさえもいない状況にある。今後高専の国際化を図るのであれば、ASEAN諸国の知財の現状を把握し、かつ知財教育についてもそのグローバルスタンダードとなるべきカリキュラムを考察する時期にきている。

そのため、今回の取り組みでは1年をかけてタイ及びASEAN諸国の知財、そして知財教育の現状を調査することを目的としたい。タイ及び周辺諸国の知財及び知財教育の現状を知り、今後高専で考察しなくてはならない知財カリキュラムのあり方をめぐる一考としたい。また同時に、これまで高専でまがりなりにも日本の知財や発想法、QC技法などを指導してきたことから、受け入れ先の大学でも積極的にそういった技法を伝えたい。

加えてこの取り組みを遂行するに当たって、申請者は過去タイ国立チュラロンコン大学にて客員研究員の経験もあり、タイ語にも堪能でありスムーズに研究を遂行できるものと考える。また、これを期にタイ語能力をさらに高め、高専機構とタイ国との人的交流に貢献したいと考えている。

PAGE TOP