集中講義@金沢大学

8月25日から28日までの4日間、金沢大学で日本国憲法の集中講義を担当した。この授業は教員採用試験の必修科目であり、さらに公務員試験でも主要な出題科目である。就職に直結するだけあって、学生の取り組みは真剣だった。猛暑のなかの講義中心の授業にしてはめずらしく、全員の集中力が高く、居眠りをする学生も極めて少ない。

学生の評価によると僕の授業は「熱い」らしい。実際、自分でもそう思う。戦後80年を過ぎたこの時期に「日本国憲法を教える」ということについて、クールではなかなかいられない。学生からは2日目が終わった段階で「先生、倒れないでくださいね」と心配される始末だった。対面の2日間、酷暑に食欲が落ち、昼食はカロリーメイトとプロテインだけで、それすら、無理に胃へ流し込むようにして口にした。教員も大変だが、学生も大変な4日間だったと思う。

現在、本務校では法学の授業を担当していないので、こうした非常勤の仕事があるおかげで、なんとか「法学教員」でいられている。・・・とはいえ、猛暑のなか連日4コマを4日間(最終日は3コマ+試験1コマ)というのは、さすがに老体に堪えた。右足の腫瘍の痛みと軽い熱中症が続いていて、正直、本調子とは言えなかった。

今回は、これまでの授業を再構成して臨んだ。生成系AIも積極的に使用し、インターネット上で確認できる各試験の過去問を収集し、L社やW社の公務員試験問題の分析を踏まえて、15回の授業それぞれに5問ずつ、合計75問のオリジナルの正誤問題を作成した。これまでの出題傾向の分析にもとづいてまず正解の文章を作り、そのうえで誤答となる選択肢を生成AIに作らせる、という手順をとった。仮にハルシネーションが生じたとしても、それは誤答の選択肢なのだから支障はない。むしろ、もっともらしい誤りを作るという一点においてはAIは好都合ですらある。そのおかげで完成度の高い問題が短い時間で作成できたと思う。毎回の授業の最後にこのオリジナル問題を出題し、最終日の試験では75問から30問(ほかに論述1題)を出すと予告して、準備してもらうことにした。本番同様のマークシートの解答用紙も用意していた。我ながら、隙のない構えだったと思う。

今回は、9条の改憲問題や非嫡出子差別の問題を意識的に長く扱い、なかでも憲法改正の手続きと13条に多くの時間を割いた。ほかにもいくつかトピックを用意していた。とりわけ、この授業の直前に起きた、ICC(国際刑事裁判所)の赤根智子所長をめぐる一件を長く扱うつもりだった。米国からの圧力にさらされ、しかも日本から選出された所長でありながら、日本政府から十分な支えを得られない—高市首相の発言はその象徴だった。司法権を扱う回で紹介するつもりで、資料も準備していた。

・・・だが、3日目の8月27日、早朝から石川・富山を大雨が襲う。学生の登校は困難と判断され、大学からもオンラインへの切り替えの連絡が入った。後半2日間はオンライン、最終試験はレポート提出に変更となった。幸いなことに受講した学生の中に被災者はいなかったが、オンラインに切り替わった講義では、画面越しに背景から説き起こす時間の余裕がなく、用意した資料のいくつかは開くことのないまま終わった。オンライン授業は3年ぶりで天候による急な変更とはいえ、学生たちには申し訳ないことをした。

戦後80年が過ぎた今、憲法の体系を学ぶことの意味は、やはり大きいと思う。「試験のために」授業をするわけではないのだが、それでも学生から見れば、そういうこともまたニーズとしてあることはわかる。憲法を体系として教えることが、そのまま学生の各種試験の正答率の向上につながるなら、これほど嬉しいことはないのだが、ただ、理念や理論を説明し理解してもらうことと、集中講義という限られた時間のなかで「合格圏まで学生の正答率を高める」こととは、なかなか僕の技量では両立が難しい。もちろん、どういう教育が「憲法学」ひいては、大学で行う授業なのかについて考えることは、今後の課題であるけれども。

大雨のせいで、ホテル近くの繁華街も軒並み閉まっていた。金沢に4日もいながら、名物らしいものはほとんど口にしていない。かろうじて、帰りの北鯖江サービスエリアで舞茸の天ぷら蕎麦を食べた。いつだったか「ドランク塚地のふらっと立ち食いそば」で見た一杯である。揚げたての舞茸は、思いのほか美味しかった。

用意したものの半分も出せずに終わった4日間の締めくくりとして、立ち食い蕎麦が僕にはいかにも似合っていたように思った。崇高で美しい理論ではないが、ふらっと立ち寄れるような店舗で提供される蕎麦のような、身近な憲法論もまた学生に提供できる教員でいたいとも思った。

帰宅して、北陸の水害のニュースを改めてみる。熊本の地震といい、災害の酷さに心が痛む。
どうかこれ以上苦しむ人が増えませんように。どうか、苦しいんでいる人に多くの恵みがありますように。

主の平和。

追記

先日AI指導のサンプルとして作成した「日ペンの美子ちゃんスクリプト」で、上記エッセイを読み込ませてマンガ化しました。今の学生にとって「日ペンの美子ちゃん」に相応するものはあるのだろうか。