Libera me

高校生の頃、知り合いの先生にFaureのRequiemを教わった。なんとなくレンタルCD屋でそのCDを借りカセットテープにダビングして聴いていた。一回聴いただけで、その荘厳な作りに「フォーレってすげぇ」と鹿児島の田舎の高校生がその歌詞の意味もわからずどハマりした。

このFaureのRequiemは7つの曲から構成されているのだが、特にこの6番のLibera meのバリトンの荘厳な調べに圧倒された。当然当時の僕はラテン語もさっぱりわからなかったのだが、僕をキリスト教に結びつけたきっかけの一つだったように思う。ちなみに当時もう一曲よく聴いていた曲の一つが『風に立つライオン』で、この曲は僕を研究職に結びつけたきっかけの一つになった。

さて、その後大学に進学してフランス語を第一外国語に選び、フランスに留学し、ちょっとだけフランス語を真面目にやってラテン語も少しだけわかるようになって改めてLibera meを含むFaureのRequiemを自分なりに翻訳したのだった。Libera meは「私をお救いください」との意味で(タイトルの翻訳くらいはレンタルCDのノーツにも書いてあったが)、歌詞も相当にヘビーな内容だった。辞書を引きながら、そうかあのバリトンはそんなことを歌っていたのか、とえらい神妙な気持ちになった。

それでもって今回本番には乗らないのだが、練習でこのLibera meを演奏する機会が巡ってきた。それはとてもとても幸せな時間だった。生きていて良かった、と久しぶりに思ったし、他の楽器はほとんど演奏できなくなったけれど、トロンボーンを続けていて良かったと思った。なにしろRequiemのうちでトロンボーンの出番があるのはこのLibera meだけで、本番はともあれ(むしろ聴くほうにまわりたい)、一度人生の中で吹きたい(または歌いたい)曲の一つだった。

Libera meのラストの歌詞はこうだ。

“Requiem æternam dona eis, Domine
et lux perpetua luceat eis.”
“主よ永遠の安息を彼らに与え
尽きることのない光で照らしてください”

このところ相当に辛いニュースが身近に続き、ひどく落ち込んでいた。国際社会のニュースでも最近のウクライナをめぐる報道を見聞するだけでも相当につらい。僕もまたこの歌に歌われる「彼ら」の一人で、人間は自分の力では乗り越えられないものがたくさんあり、不条理だと思ってしまう苦しみがたくさんやってきて苦しみ続ける。そのたびにニンゲンはこれからも何度も「私をお救いください」と唱えつづけるしかないのだなぁ、と思う。

主の平和。

※今は便利な時代で、Google翻訳でラテン語も日本語に翻訳できるとのこと。すごい時代になったものだと思う。興味のある方はGoogle翻訳でぜひ翻訳してみてください。またYoutubeにもRequiemはアップロードされているのでLibera meをぜひ聴いてほしい。

Libera me, Domine, de morte æterna,
in die illa tremenda.

Quando cœli movendi sunt et terra,
Dum veneris judicare sæculum per ignem.
Tremens factus sum ego et timeo,
dum discussio venerit atque ventura ira.
Quando cœli movendi sunt et terra.

Dies iræ, dies illa,
calamitatis et miseriæ,
dies magna et amara valde.

Requiem æternam dona eis, Domine
et lux perpetua luceat eis.