ロバート・コンセダイン/ジョアナ・コンセダイン著『私たちの歴史を癒すということ』影書房

私たちの歴史を癒すということ

『週刊読書人2/10号』に当方が書いた書評が掲載されます。

ロバート・コンセダイン/ジョアナ・コンセダイン著『私たちの歴史を癒すということ』(吉井千周)

本書は、ニュージーランド史を先住民マオリの立場から再構築する試みであるのですが、新しい事実を発掘するというだけでなく、「わたしたち」が歴史を「修復する(癒す)」という実践活動を行い、歴史家や研究者に留まらない歴史のありかたを問うています。この書籍に書かれている活動は、「歴史修正主義」とは全く異なる「わたしたち」による歴史修復の試みです。

大変素晴らしい書籍ですので、ぜひ『週刊読書人』の当方の書評を読んでいただき、購入していただければ幸いです<(_ _)>。

『週刊読書人』に書いた書評と重ならない範囲で以下余談を。

歴史学の名著、E.H.カー『歴史とは何か』については、昨年の新訳版について先にやはり週刊読書人の書評にて紹介させていただきました。改めて新訳で紹介されている内容に大いに共感したところです。新訳によって私自身のE.H.カーへの理解も深まったところです。

ただし、その一方でカーの述べる歴史家の役割について疑問に感じるところもありました。その中身については、今回紹介した『私たちの歴史を癒すということ』に上村英明先生が解説として書かれている内容に重なるのですが、歴史家が自身の立場を現実の状況から離れ歴史を記述し、またそうした行為がカギカッコ付きの「歴史」を生み出しているということへの無自覚さへの疑問は残ったままでした。いえ、こうしたカーの解釈については、すでに先行研究者から多くの指摘が行われているものであり、改めて当方がどうこういう類の論争ではないとも思っています。ただこのようなカーへの疑問を解消する一つの方法として、本書で紹介された(実践されている)「歴史を修復する」という「わたしたち」の実践活動には大変共感しました。

記事については『週刊読書人』をはじめとした書評紙の現状を考えると、お手数ですがどうかご購入または図書館に足を運んでいただければ幸いです。残念ながら弊学の図書館からもすでに書評紙は消えてしまい、書評誌の文化を維持するのは大変な状況です。もしお時間ございましたら、お立ち寄りの図書館に購読のリクエストを出していただければ幸いです。