イワシ三昧<逃避モード

昨日の合唱で感じた咽の痛みが未だ取れず、のんびりペースで一日の授業を終える。山のような仕事は相変わらず減らないままで、録画していたN響アワーのメンデルスゾーンの回を流すのだけれどもバイオリンコンチェルトはあまりにも切なすぎて、治りかけの頭の痛みがますます増したよう。仕事の山は一向に減る様子もなく、深夜までかかることを見越してトロンボーンを吹きに吹奏楽部の部室に向かう。

吹奏楽部の顧問で良かったと思うのは、常にトロンボーンを吹ける環境があることで、研究室では吐くことのできないため息を音符に変えるようにしてはき出す。漫画的な表現で書くと今日の僕の楽器から出る音はすべて八分音符のハタの部分がくねくねと必要以上にまがりまくっていたのではないかとふと思う。そして学生もまたいろんな思いを音に変えてはき出すためにこの場所に集まっているのではないか、と思う。

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自宅に帰る道すがら、生協によって大きなウルメイワシを見つけ大量に購入。この一年数え切れないほど乗ることになったANAの機内でたまたま読んだ『翼の王国』誌(<ANAの機内誌)でポルトガルの鰯祭りが紹介されていたことを思い出し、ふと山のようなイワシを見ながら「イワシづくしの料理が食べたい」と食欲に火がつく。その機内誌では赤ワインとイワシを大量に焼いて食べている人々と、「イワシは海水のままミネラルウォーターのボトルに詰めて凍らせておく」というキャプションがついた写真が載っていてやたら旨そうだった。忙しいくせに大量にウルメイワシを購入。

とりあえず5匹を3枚におろす。こういう青魚が大好きな僕はいつもなら完璧になめろう(房総の郷土料理)を作るノリなのだが、今回の酒が赤ワインであることから包丁で叩いてカルパッチョを作る。軽くあぶったニンニクのスライスをたたき込むのと軽く唐辛子を振るのが南仏出身の留学時のステイ先のお母さんから教わったポイントですばらしく旨くできた。

また2匹はオリーブオイルを引いたフライパンでソテー。吉井家の定番スパイス、ハーブドプロバンスと刻みニンニクで豪快に処理して白い皿に盛る。新鮮な鰯の油がイワシの身自身を焦がしてしまうことを防ぐために、多めのオリーブオイルを使うのがポイント。ニンニクは最後の仕上げに軽く振るのがポイントで、いわばタイ料理の「ニンニクとライムの蒸し物」といった感じ。

おまけにカボチャのペペロンチーノを用意してワインをセット。また今日は調子に乗って銀杏ごはんを炊いており、グリルで焼いたウルメイワシは身を軽くほぐして銀杏ごはんとあわせ鰹とチキンでとった濃厚なダシでびしょびしょにして和風のリゾットを作り小口に切った葱をちらして食べる。銀杏ごはんのリゾットは少しもったいない気もしたけれど、最高に旨くこの数年の創作料理の中では上位に食い込む一品。

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久しぶりにJ.Johnsonというえらくマニアなトロンボーン吹きしかしらないようなCDを取り出しマンズワインでほくほくと食べる。自分で作るメシが旨いというのは本当に幸せだ。

「ア、秋」

という太宰の散文のように僕の「秋」の項目にあるのは、こんな食の風景ばかりで自分の業の深さを思い知るのだった。