サムーン郡役所に向かい、資料を集める。HNJ村への帰路、登坂車線で車が横転。崖に面した道路で、あと半回転したら谷底へ真っ逆さまだった。後続車にたすけられ、救急車で病院へ。サムーン郡の緊急病院では対応が出来ず、そのままチェンマイ市内のラム病院1へ転院。このあたりで意識がなくなり、麻酔が切れ気が付いたときは病室。心配そうなNGOのAさんとHさんの二人の顔にきづく。

右腕の複雑骨折と右小指・薬指の神経損傷だと医師から説明を受ける。とにかく命があっただけでもよかったのだ、腕いっぽんですんでよかった、と説明される。

付き添いの看護婦さんにダイヤルしてもらい身内に連絡する。警察の情報、日本大使館からの情報で知人は混乱していたが、本人からの電話で落ち着きをとりもどしたようす。後続車にのっていたSさんもお見舞いにきてくれて、脱出時の状況を知る。気が動転していたのか研究ノートのはいったバッグとパスポート、そしてなぜかウクレレをもって横転したままの車から脱出したそうだ。

手術をした傷痕が痛み、寝つけない。指が動かない、という事実がなにか嘘のようで、「まさか自分が」と思う。が、確かにいくら力をいれても動かない。不思議と悲しい気持ちにはならず、ぼんやりと動かない二つの指を明け方の病室の中で見る。
看護婦さんにお願いしてシャツを着替えるときに「なぜ、この楽器があるの」と尋ねられる。血のりがついたウクレレをみた瞬間に笑いながらもはじめて涙が出た。実は僕のウクレレの十八番は牧伸二の『やんなっちゃった節』だ。「やんなっちゃった」けどまだ死ぬわけにはいかんなこりゃ、と思いつつちょっとだけ泣いた。