風は吹いている

20年近く前にチェンマイのNGOに通っていたとき、小学5年にして栄養失調気味で130cmの身長のずっと病気がちだったモン族の女の子が入所した。

ちゃんと大きくなるんだろうか、と心配しながらその子の成長を見ていた。その子は、僕のことを「センシュー」と呼び、「まるで風のような名前で、センシューは風のように世界のあちこちを旅できるんだね」といってくれた。チェンマイの小さなエリアの中で生きることさえ、つらい現実を突きつけられている少数民族の彼女に僕はうまく言葉を返せなかったような気がする。

その後、僕が博士課程修了後に2年ほどそのNGOに通えなかった時期があり、久しぶりにNGOを訪れたところその女の子は消えていた。僕よりも先に彼女の方が風のように姿を消し、NGOの誰とも連絡ができなくなっていた。

その子から昨日、FB経由でメールが届いた。先日そのNGOでやったトロンボーンの演奏会がとても良かったと、そのNGOに寄宿する同じ村出身の子どもからFB経由で聞いたのだという。現在彼女はアメリカに移住し、結婚して子どももう二人いるとのこと。
風にのって彼女は遠いアメリカに旅立ち、僕の活動も風にのって彼女の耳に届いている。

風はたしかに吹いている。