カウボーイハットとムチを手に取って探検に飛び出そう(まちおん連載1回目)

John Williams

こんにちは。学校教員の吉井です。地方初の音楽ジャーナルがあってもよいのではないか、というお誘いをうけしばらく担当させて頂くことになりました。自分の基本はクラシックになるのですが、ジャズや吹奏楽の話題についても書かせて頂きます。しばしお付き合い下さい。

さて、第一回目のお題としてディレクターのKさんから与えられたのは「これを聞け!」という1枚。最近はネットでダウンロードをすることも多くなり、レコードであれ、CDであれ、1枚と言う単位が曲の単位としてどれだけ正確なのかはわからなくなってきた。実際Adoの「うっせぇわ」のようにダウンロード販売で単曲の購入を前提とした曲も数多あるところであり、ダウンロードも一曲単位でできるようになった状況の中では、「枚」という単位がどれだけ正しいものなのか難しい。ところが、そういった状況の中で、爆発的にとあるアルバムがCDはもちろんハイレゾ録音盤/DVD/BlurayそしてLPレコード販売と驚異の「枚」数の単位で売れた。販売元はクラシックの名門レーベルグラモフォン(Gramophon)で演奏はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団。「ばら売りできないような交響楽をクラシックファンがこぞって購入したのでは?」と思うかもしれないが、実はそうではない。

『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン(原題:John Williams in Vienna)』。

John Williams in Vienna

誰もが観たであろう、「スター・ウォーズ」、「レイダース」、「ジュラシック・パーク」、「E.T.」、「ジョーズ」といったの映画音楽を作曲者であるジョン・ウイリアムズ自身が2020年1月に指揮をした名演奏のライブ録音だ。しかも演奏するのは創立して179年という世界屈指のオーケストラであるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団。2020年に日本のみならず世界で最も売れたクラシックアルバムになった。しかも2021年9月の今日でも売上上位にランクインされている。収録されているどの作品も素晴らしい。懐かしい思いに浸る2時間になるだろう。 個人的な感想として3曲挙げると、ウィーンフィルの圧倒的な迫力で聞く『スターウォーズ』「帝国のマーチ」(Imperial March)は、弦の低音に加えて金管楽器の華々しく荘厳な音が圧倒的だ。こんな迫力のあるテーマソングを聴いてしまったら、帝国軍に志願する第二第三のアナキンが増えてしまってしょうがないだろう。また『レイダース失われたアーク』「レイダース・マーチ」(Raider’s March)は冒頭の金管楽器のファンファーレが有名だけれど中間部の弦楽器と木管楽器のアンサンブルがまたぐっと泣かせる作りになっている。スーパーに買い物に行きながらこんな曲を聴いたら、興奮のあまり思わず棚に並んだ林檎を手に取りかぶりついてしまうかもしれない。

このアルバムで何よりも特筆すべきはヴァイオリンのアンネ=ゾフィー・ムターが参加した『イーストウィックの魔女たち』「悪魔のダンス」(Devil’s Dance)だと思う。『イーストウィックの魔女たち』は興行的には成功したとはいえない作品だと思うが、彼女のバイオリンによって表現される怒り、嘆き、切なさはこの音楽がコメディ映画のために作曲されたとは信じられないだろう。ビブラートの一つ一つ、ピチカートの一つ一つ、グリッサンドの一つ一つが計算され尽くしている。この「悪魔のダンス」を聴くためだけにこのアルバムは購入してよいと個人的には思う。逆に言えば、この音楽を聴いてから映画を観るとずっこけると思う(そんなに嫌いな映画じゃないけれど)。

さて、上記アルバムは一応「クラシック音楽」というカテゴリーで販売された。「クラシック音楽」と呼ばれる音楽ジャンルの定義は実は非常に難しい。英語のclassicには「古典」いう意味が含まれるのはよく知られているが、例えばモーツァルトやベートベーンにしても演奏された当初から「古典的」だったわけではもちろんない。「気がつけばそのように呼ばれていた」と言う程度の大まかな音楽シーンにおける形態にすぎない。その過程の中には、公演当初あまりにも画期的すぎたためにこのような音楽は受けられないとされ、淘汰されていった無名の音楽もたくさんあった。そして「クラシック音楽」に類する分野は今でもたくさん作曲されている。 実は「Classic」という言葉には「第一級」という意味もある。いくつもの作品が生まれた中で生き残り、「古典」となったものがクラシックだ。そういった意味からすれば、今回のジョン・ウイリアムズのアルバムは、紛れもなく第一級の作品として後世に伝わるものであろうし、演奏もクラシックと呼ぶにふさわしい名演である。売れているアルバムにもやはり売れている理由があり、まさに名盤と呼ぶにふさわしいと思う。「何かみえないものに共感する自分」を意識しでき、なんならカウボーイハットをかぶって探検したくなったり、困っている人々を助けたいと思うような衝動を抱かずにはいられなくなる・・・そんな行動力を支える一枚になるだろう。

今回の連載にあたって、ジャンル関係なく、クラシカル(第一級)の仕事というのを考える一枚として「これを聴け!」の第一号に挙げておきたい。

都城工業高等専門学校准教授(法学)

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