『公共』科目について

2022年度から、これまでの『現代社会』に代わり、『公共』の科目が実施されます。『現代社会』という科目は、誤解を恐れずにいうと『倫理』『政治・経済』のダイジェスト版という感じで、大学進学を前提とする普通科高校の1年時、または実業系の高校において採択されていた科目でした。

『現代社会』の扱う内容は、大学の研究分野に即して言えば、哲学・心理学・政治学・法学・経済学と多岐に渡り、いくらダイジェスト版とはいえ、教える方としては非常に広い知識が必要とされる科目でした。なまじっか知識のある教員にとっては、「特定の分野を語りすぎて時間が不足してしまう」科目でもあり、正直高専の1年生で(高専は高等教育機関であるため、必ずしも高校のカリキュラムに従う必要は無いのですが)採択してはいるものの、その指導はなかなか難しい科目でした。

その『現代社会』が2022年度から『公共』に代わります。この変更に関しては、文科省の方針をまとめたスライドをご覧頂ければ、その趣旨がわかるかもしれません。ともあれ、

「グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の有為な形成者」を育生

という目的に合わせて『公共』という新科目が創設されることになりました。当方は教員免許がないため高等学校での状況がどうなるかはわからないのですが、ともあれ「地歴科」「公民科」という高校の社会科においては、「公民科」の再編の目玉として成立した内容のようです。『公共』については、この記事を書いている2022年3月1日現在で、学生はもちろん教員が利用する参考書の類も十分とは言えず、さてさて、4月からの授業準備について困ったなぁ、というところです。社会科学者であれば、public sphere[英]、Öffentlichkeit[ド]等の用語で議論されてきた「公共性/公共圏」問題などがどう扱われるのか気になるところではありますが、社会科学の議論はさておいて、ともあれ現実として来月からは『公共』という科目がスタートするという現実はかわりません。なお、『公共』の英訳名として、文部科学省は「Public」を当てています

『公共』がスタートするにあたって、高等学校の先生方にはなんらかのアナウンスが、県教委や各地区の教育委員会経由でまわってきた可能性があるとは思うのですが、残念ながら、高専教員には今のところアナウンスはありません。コアカリキュラム(高専での教育の質保障のため、全ての高専でガイドラインとして保たれるカリキュラム)では、詳細について言及されないこともあり、「こりゃ困った」というのが本音です。私自身は、ひとりの「研究者」として、公民科の科目に対して個人的意見を有してはいます。しかし、今後場合によっては大学進学へと進路変更をする学生にとって不利になるような授業をするべきではないと思っています。『公共』という名前で表現される授業について、カリキュラムに関するあれこれを感じながらも、授業は教員のためではなく学生のためにあると思っているので、「特別変わった」授業をするつもりはありません。

この『公共』が最終的に決定されることになった平成28年度開催の「社会・地理歴史・公民ワーキンググループにおける審議」が以下のページで公開されています。『公共』を担当される先生方は一度目を通して頂いたほうがよいかと思います。

・社会・地理歴史・公民ワーキンググループにおける審議の取りまとめについて(報告)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/071/sonota/1377052.htm

さらに、文部科学省教科調査官として『公共』科目の設定に関わった、玉川大学の樋口先生のコメントが以下の通りになります。

・2022年度より高等学校公民科の必修科目「公共」がスタート。新科目の中身と求められる教員について教育学部教育学科 樋口雅夫教授に聞く(前編)https://www.tamagawa.jp/education/dream_uni/detail_19446.html#:~:text=%E3%80%8C%E5%85%AC%E5%85%B1%E3%80%8D%E3%81%AF%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%EF%BC%91,%E3%82%92%E7%9B%AE%E7%9A%84%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

そして日本学術会議からも提言がありました。

・日本学術会議政治学委員会「高等学校新設科目「公共」にむけて−政治学からの提言−」https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t239-2.pdf

これらの審議とりまとめ、その内情と提言を読んだ率直な感想としては、「そんな余裕のあるカリキュラムをこのコロナ禍(下)でどうやって作れと言うんだ」というところでしょうか。AL(Active Learning)、PBL(Problem/Project Base Learning)といった「自主的に学生が学ぶ機会を作る」ことについても、与えられた制限時間でどうやれば可能なのか、教えて欲しいと切に願っています。ALやPBLを一から指導することもまた社会教員の新しい仕事になるのかな、とも。

このように書き連ねると批判するばかりなようですが、評価すべき点もあります。何よりもAL、PBLをカリキュラム内に取り入れたことは、時間数と教員への負担はあるものの、方向性としては決して間違えていないとは思います。何よりも現役のキャリコンとしては、キャリア教育が正式に採用されている点も評価したいと思います。悲観的に見ればこれは「就職指導までもが社会科に押しつけられるのか」という言い方になるのかもしれませんが、これまで高専の中にいて、満足なキャリア教育がなされていない実情を見ており、ゲリラ的にキャリコンの資格を取得してまでやっていたことが、やっと花開いた感があります。これまでの『現代社会』では、せいぜいエリクソンの「モラトリアム」や「アイデンティティの確立」の話をするぐらいでしたので。むしろ、キャリコンの学習を進めていない先生方は、キャリコン的な考え方をどこかで学習しないと指導が難しいように思います。

ともあれ開講まであと一ヶ月。無い知恵を振り絞って『公共』の授業準備を進めたいと思います。

富山大学学術研究部教育研究推進系准教授

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