地方での社会人教育

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なぜ「地方」で「社会人教育」なのか

11083758_802519219801940_8539324317681635725_o.jpg近年、社会人教育の必要性が多く語られるようになりました。めまぐるしく動く現代社会、最新の技術の登場といった社会環境の変化の中で、一定の教育経験を経た社会人であっても、常に自らのスキルアップが求められる状況になっています。こうした状況を踏まえて文部科学省は社会人の教養教育促進に関して、その一端を大学等の高等教育機関に担わせるようになりました。また少子化が進む今日、高等教育機関も新しい学生層の開拓という意味合いもあり、こうした社会的要請に応えるべく、各校において公開講座などの実施・開催をを通してそういった要求に応えてきたといえましょう。都市部・県庁所在地には地方国立大学のほか私立大学も多数存在することから、現在各大学とも積極的に社会人コースを開設し、こうした社会的要請に応えています。
ところがここに一つの問題が生まれます。都市部ではもともと地方都市に比べて収入が高いこと、また第三次産業従事者が多いことなどから、大学・高等教育機関が積極的に社会人教育を行わなくても社会人主催による勉強会もあれば、専門学校も多数あり、その選択肢は広いです。それに対して、地方都市では第三次産業従事者が増えたとはいえ、第一次産業、第二次産業が中心であり、社会人教育で求められる内容が、都市部・県庁所在地と大きく異なります。また対象となる社会人のバックグラウンド(特に学歴)にも顕著な違いがみてとれます。
地方都市でも社会人教育に対してニーズはあるのですが、「どのような形で行えばよいのか」ということについては現在試行錯誤の真っ最中なのです。

高等専門学校と社会人教育

1500873_652832378102920_516309939_o.jpg特に各都道府県各地域のさらに県庁所在地から離れた場所に設置されていることの多い高等専門学校では、周囲に高等専門学校以外の高等教育機関が存在しないため、特に社会的要請が高くなっていると考えます。私自身がそうであるように、実は高等専門学校には多くの文系の教員がいること、そして大学と同じく学士を輩出することができる高等教育機関であることは関係者をのぞくとあまり知られていません。
高等専門学校の設置目的は、学校教育法第115条に記されているとおり、「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成することを目的とする。」というものです。同法の第83条に記されている大学の設置目的である「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。」という項目と比べてみると、大学で教える内容よりもより実学的な要素を含み、職業にコミットした内容を伝授するのが高等専門学校であることがわかります。
しかしながら、どうもこの分野において高等専門学校は大学に比べて一歩も二歩も遅れているという感想を持たざる得ません。
18歳人口の減少を向かえた今日的状況の中では、1 社会貢献活動を通して、高等専門学校そのもののPR効果も認め、また卒業生を再び学校に戻らせるという効果もあり、加えて、在学生がそうしたリカレント教育に参加する一般の人々と出会うことで、一足早く社会経験を行い、また外部の人とふれあうきっかけとなる可能性があり、決して軽視できるものではありません。

どのようにして地方で社会人教育を行えばよいのか。一教育人として考察を進めています。

都城での実践「まなび長屋」

1474633_454564247983561_1674920496_n.jpgこのトピックについては、単なる研究として考察を進めるだけでなく、私自身も講師として実際に市民教育のフロントラインに立って、市民がどのような教育を欲しているのか積極的にコミットしていく試みを2011年から現在の本務校がある宮崎県都城市で行っています。

きっかけは単純なことでした。都城では先駆的な活動を行っている企業は多く、「がんばる社長さん」も多い土地です。ですが、その一方で、「若手・中堅のビジネスパーソンが勉強する機会が少ない」という話を何度も聞くことがありました。
都会であれば、自主勉強会などの催しも随時開催されているようです。同じような勉強会を都城でも行おうと、いくつかの試みが若手・中堅のビジネスパーソンを中心に開催されましたが、

・定期的に集まれる場所の確保
・コストの捻出
・事務局の設置
・講師の確保

といった問題が累積しており、「現在のビジネスに必要なスキルを定期的に学びあう機会を作ろう」とは思いながらもなかなか定期的な活動を行うには難しい状態が続いていました。こうした都城の「ビジネスパーソンをめぐる知の現状」を変えていこうと、会社員、公務員、病院勤務、主婦といった数名のメインスタッフでスタートしたのが「まなび長屋」です。

幸いなことに、開催してみると当初の予想を超えて、年代を超えて毎回50名前後の方々の参加者があつまるようになりました。「今どんなスキルが必要とされているか」ということを考えながら、毎月の講座の内容を考えてきたことが良かったのだとメインスタッフは考えています。また事務局を都城高専の法学研究室に設置することで、活動を定期的に行う土壌をそろえることが可能になりました。FacebookやTwitterというSNSの力も借りながら、密度の濃い活動を続けています。

受講料を含め、まったく無償でこれまで勉強会を続けられたことで、「もう少し学びたいけれど、様々な理由があって受講料が出せない」かたがたにも広く受け入れられています。そしてなによりも、「ちょっとだけ知っている身近な人」が講師に上がるというスタイルも、都城で継続的に続けて行くには重要なことでした。まるで落語に登場する熊さんや八っさんが、長屋の「物知りなご隠居」に気軽に相談にいくような勉強会になりました。「学ぶ」という言葉の語源は、「真似る」の古語「まねぶ」という言葉にあるとのことです。まなび長屋が「ちょっとだけ自分より知識・技術を知っている」人を真似て、自分の知識を交換するような空間になってくれたら、そしてそういう雰囲気がこの都城の中に育ってくれればと思っています。

現在毎回の勉強会には50名前後の方々がやってきます。そうした方々との出会いは私たちに大きな恵みをもたらしてくれました。「写真屋さんが語る写真の撮り方」、「ビデオ屋さんが語るビデオの撮り方」「演劇人が教えてくれる発声法」といった講座はその内容の濃さもさることながら、「みな何かを持っていて、だれかに教える能力を持っている」ということを気付かせてくれました。

このほかにも「嬉しい誤算」だったのは、若手・中堅のビジネスパーソンのほか、リタイヤした人生の先輩達(でもとってもやる気のある方々)が参加してくれるようになったことです。「まなび」に年齢はない、それを実感できたということだけでも、この会を続けていくことに意味はあるようで、研究テーマとしてだけでなく、運営していくスタッフと集まってくる方々との輪を含め実践活動としてとても大切なフィールドです。

関連する論文

  1. 吉井千周、桑江豊、小林春陽、小林洋介、野元健作、日吉尚樹、湯浅妃登美、吉井藍(2016)「高等専門学校におけるリカレント教育の現状と課題「まなび長屋」の実践を事例として」『都城工業高等専門学校研究報告』都城工業高等専門学校、第50号,pp.50-61

関連するHP

  1. まなび長屋 http://senshu.holy.jp/manabi/

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