『今夜すきやきだよ』がすばらしい件について

今テレビ東京系で放映中の『今夜すきやきだよ』が僕の界隈であまり話題になっていないのがちょっと残念なので書いておきます。

Tver『今夜すきやきだよ』

この番組の枠はもともと『孤独のグルメ』が放映されており、メタ的には松重豊が演じるオジサン(井之頭五郎)がぶつくさ独り言を言いながらひたすらにメシを喰う風景を見るのが好きでたまらなかった。その後番組で放映されたのがこの『今夜すきやきだよ』なのだが、タイトルからてっきり、グルメ系のドラマかと思っていたのだがそうではなく、実は家族や人間の関係性を問うドラマだった。たまたま1話を見たのだがそのあとハマってしまった。

ドラマは蓮佛美沙子とトリンドル玲奈のダブル主役で、映像がまずとても良い。使っている小道具もとても選ばれたものであることがわかる。所有するカメラがGR3だったり、ホーローのフライパンだったり。おおお。わかっている演出じゃないか、と思う。(たとえば今期のドラマでは『リバーサルオーケストラ』もおもしろいのですが、オケではまず使われない某社の安い楽器とかが小道具として使われていて、ストーリーが頭にちょっと入ってこなくなる)

何より、恋愛体質の売れっ子インテリアデザイナーとアロマンティック(他人に恋愛感情を感じない)な売れない絵本作家との関係がそこに恋愛感情はなく、「共生して生きる」相手としての関係性「しか」ない。

この「しか」ないというところがミソで、僕らの生きる社会では、ありとあらゆる人間関係は何かというと好き嫌いの恋愛関係に落とし込まれ、強制的に解釈されてしまう(ことがある)。「一緒に暮らすのが楽な関係」「たまたま一緒に住んで楽な関係性を築いているのが同性(または異性)」でいいじゃないかと思うのだが、同居する関係となるとそれだけでヘンなフィルターが重ねられてしまう。男女間の友情も含め、恋愛関係に陥らない関係も人間関係では十分にあるわけなのだが、そうはならず、同性間での恋人同士ではない関係性もあって良いのだが、そのような解釈が許されるほどには我々の社会は成熟していない。おお、そうかこれは令和の同性版の『逃げるは恥だが役に立つ』なのだと思う。

原作は谷口菜津子(2021)『今夜すきやきだよ』新潮社。第26回手塚治虫文化賞の新生賞を受賞した作品とのことでドラマを見た後に原作を購入。結末についてはすでに漫画版で分かっており、衝撃の結末も知っているのだが、最後まで見逃せない。

ぜひこの作品をもっと知ってもらいたい。