高等専門学校におけるデータベース教育の可能性

今回、学生とデータベースに関する勉強会を行った。
自分の得意分野の科目で、かつ今年度から他大学でデータベースを指導するという目的があるため、学生がどれだけの知識を持っているのか見極めたいという趣旨もあった。参加者は電気情報学科の学生2年生、4年生、専攻科生、そして物質工学科の学生。集まった彼らは夏休みにこういう学習会に参加するというそのモチベーションをもっているだけでもかなり優秀な学生なのだが、彼らから

・MS-AccessやFileMakerなどのDBMSを触ったことはない

と聞き、大変驚いた。繰り返すが彼らは勉強不足な学生なのではない。むしろこの勉強会に集まった学生は非常に優秀で、今回の勉強会もTwitterやFacebookで知り参加した情報の取り扱いにセンシティブな学生である。
非常に驚いた。

彼らとの話の中で理解したのは、

・データベースの重要性は理解しているが、なぜデータベースを利用する意義があるのかははかりかねている

という思いがあるようであった。
考えてみると30-40代の我々が学生の時代は様々なカード型データベースが全盛期の頃で、各種カード型データベースを各人がそれぞれ作成し、愛用していた。
特に京大カードと呼ばれる形式のデータベースを研究活動に利用している研究者は多く、データベースの文化は文系の研究室で開花したように思う。中でもMacintoshとWindowsの異なるプラットフォーム間で利用できるデータベースはFileMakerしかなく、大学生協でもFileMakerが普通にベストセラー商品になっていたように記憶している。
文系であってもフィールドに出て、気づいたことを片っ端からカードにして記録するFileMakerは大変重宝であったし、またその頃から住所録ソフトなどは存在したが、フィールドワーク先の細々とした情報を書き込むにはフィールドが少なく、やはりこれもFileMakerで自作していた方が多かったように思う。
しかし、学生との話の中で、今や自分で「ローカルでデータベースを作成する必要そのものがなくなった」のだなぁ、と改めて思い知らされる。
かつてFileMakerで作っていた京大カードはEvernoteで(しかも異なるプラットフォーム間を超えて気軽に利用できる)、住所録はiOSとMac、またはGoogle系の住所録管理で(<Gmailの機能として設定されている)まかなえる。写真などのファイルベースのデータについても、Dropboxで共有し、Spotlightで検索も簡単にできる。
自分自身も今はFileMakerで京大カードを作ることはなく、全てEvernoteに移動しているし、またフィールドで出会った方の情報もiCloudの住所録で一括管理している。もし自分がこういう時代に生まれていたなら、DBMS(データベース管理ソフト)に関する知識を改めて身につけるということもなかったと思う。

しかし、学生にしてもサーバーで動くDBMSのSQL(例えばOracleやPostgreSQLなど)に関しては情報系のインフラでは欠かせない言語であることは知っているし、就職してから必要となることもわかっている。「どうにかしてSQLを学びたい」という気持ちがあることは事実なのだが、積極的に食指が動かなかったというのが実情なのだろうと思う。

DBMSのプログラマーとしてスキルを磨いてきたと自負しているので、この状況にある種の悲しみを感じるが、それが時代というものなので、それ以上のこともない。オッサンの懐古主義に付き合わされる学生も迷惑な話であるし。だが、データベースを設計するという作業は、自分がどういう情報をどういう視点から集めようとしているのか、ということを表現する最も基本的な行為なので、学生にはどこかで触れてもらえたらと思う。

あまりにも大きなテーマであり、かつ別話題になってしまうので(学習会では熱く語ったのだけれど)別項に譲るが、

・なぜデータベースを設計する必要があるのか

という概念的な所から体感する(または教育カリキュラムで教える)必要があるのだろうなぁ、と思った。そしてこれは表題にあるとおり「情報系学科」のみの話ではなく、他学科の学生(本校にはないけれど文系の学生など特に)にも考えて欲しい「高等専門学校におけるデータベース教育」のトピックなのだろうと思う(もちろん、Evernoteや各種のオンラインデータベースがあるので、データベース設計まで係わらせなくてもよい、という立場もあるだろうが)。