帰国準備

今年一年の高等専門学校機構による在外研究派遣が3/9で終了するため、帰国を約2週間後に控えた今、荷造り作業の真っ最中。

フェイスブックの方で簡単に報告したとおり、幸運にも来年度から新規に始まる文部科学省科研費海外共同研究に採択されたため、4月からはチェンマイ大学のRCSD(社会科学・持続的開発研究センター: Research Center for Social Science and Sustainable Development)にAffiliated Scholarとして単身赴任する。チェンマイに住むのも実に10年ぶり。10年を越えて僕を研究の道に向かわせることになったチェンマイに住むことは、また僕に大きな恵みを与えてくれるだろう。不安もなくはないものの、ただただ嬉しくてしょうがない。

今回の高専機構による赴任の期間は、敢えて山地民研究には触れずに、ひたすらタイの知財に関する仕事を中心に扱ってきた。これで1年ほどは知財関係の書類を開くことはない。研究で使った書籍を撤収する作業はどことなくもの悲しく、1年間親しんだ泰日工業大学のオフィスもすっかりもの寂しい様子。今は、タイで過ごした11ヶ月の「祭りのあと」を少し感傷的に過ごしている。

また、日本を発つ前の想定と異なり「まったく手も触れなかった」書籍があることも荷造りしながら反省する。特に意匠に関してはまったく手つかずのままだった。これは「嬉しい誤算」でもあるのだが、タイの特許教育をめぐる現状分析に課題が多く、あまりにも多く考えることがあったため、手が回らなかったというところ。

来年のチェンマイではこうした反省も生かし、より量をしぼって山地民の研究に励もうと思う。せっかくもう一年楽しく研究させてもらえるのだから、もっと深く少数民族の世界を見てこようと思う。そういう意味では、量を絞る大切さをこの年齢で改めて知ることができたのはよい経験になった。もう若い頃のように無理して徹夜で書籍を読む体力も僕にはないこともよくわかったわけだし。

「地球をしばらく止めてくれぼくはゆっくり映画を観たい」とは寺山修司の言葉だが、僕も地球をしばらく止めてもらってゆっくり書籍を読みたい。僕は残された人生の中で何冊の本を読み、どれだけの時間を考えることに費やすことが出来るだろう。そして、どれだけの時間フィールドと向かいあえるだろう。

あの美しい山々の中で暮らす人々の豊かな生活を肌で感じ、そしてそんな美しい山々の中で暮らす人々の言葉にならない苦しみを側で寄り添いながら感じたい。

そんな1年がまもなくスタートする。「祭りのあと」でもあり、これから始まる「祭りの前」でもある。この静かで穏やかな時間を有意義に過ごしたい。