スパコンをめぐる仕分けについて

民主党のマニュフェストに基づいた事業仕分けが一段落したようす。何かと叩かれた蓮舫参議院議員の「世界一になる理由は何があるんでしょうか?」「2位じゃダメなんでしょうか?」という発言に石原都知事が「スーパーコンピューターに2位はないの!1位じゃなきゃダメなの」、「この日本はつぶれる。政府がつぶれるだけじゃない」とコメントをよこしたそうで、相変わらず政治的イッシューで石原と意見が一致することがないことを確認し、自分がおかしな方向に行っていないことも確認できてつくづく東京都民でなかったことに安堵した次第である。

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まず今回の事業仕分けが目指したことは、肥大化した行財政のスリム化にあったわけで、あの市ヶ谷にあったJICAの無駄な建物を見聞していた立場からすると、JICAの無駄な出費をはじめ複数の巨額の無駄なカネにメスが入れられたことは詳細の部分では気になるところがあるが、総論的にはなんだかんだ言いつつもスバラシイことであったと思う。だいたい民主党の議員にすら納得させられないような説明の仕方しか官僚さんたちができないのであれば、それはまずかろうと思う。

オープンな場でこの事業仕分けをしちゃったことは、おそらく自民党ではできないことで、「税金の使い方がオープンな場で議論されるようになった」ことだけでも(細部はさておき)十分に評価できると思う。

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だが、蓮舫の「世界一になる理由は何があるんでしょうか?」「2位じゃダメなんでしょうか?」という発言がなぜあれほどバッシングを受けるのか、その理由がいまいちわからない。まるで民主党が科学に対して無理解であるかのようにさんざんなバッシングが行われたが、そうやって叩いている本人が科学に対して無理解であるかのように思えてならない。僕などはむしろ「スーパーコンピュータの1位を目指す」という発想について行けず、演算処理速度が速ければよい、というコンピュータが誕生して何がどう変わるのか僕にはわからない。

こんなことを書くと、「それはおまえが文系で、しかも科学者としての素養がないからだ」というツッコミが入りそうだが、高専という研究者業界の周縁にいるような身分なので、「まったくそのとおり」ということで僕もそのことは否定しない。たぶんそれは僕がエンジニアリングの業界(D.Eng.)の人と関わりがなく、Ph.D.(哲学博士)系の学問を目指している人としかつきあいがないからなのだろうが、「世界一位を目指す」という研究のスタイルが僕の周辺の研究者像と一致しないのだ。

「研究って1位になるためにしているんだっけ」、とちょっと悲しくなってしまうのは僕がたぶん文系のそれもできそこないの研究者だからだろう。僕の勘違いでなければ、この日本という国は多くの分野で何度も「世界一」を目指しながら、到達できなかったジレンマを抱えて何度も軌道修正をしてきたたくましい国だったはずで、「世界一」になった分野ができたところで限りないレースに参戦し続けるむなしさも十分に味わってきたはずだ。

何よりも、蓮舫のツッコミに対して的確に返答出来なかった時点で文科省の役人さんたちにも十分に非はある。もう一つ言えば文科省の役人たちや世間に対して常日頃から「スーパーコンピューターで世界一になる理由」をアピールしてこなかったスパコンの研究者グループにも非はある。なんだかジャンケンが終わった後で、いちゃもんつけているみたいな気がするのだ。

少なくとも僕の所属している研究グループでは、予算削減のことについて「世界一を目指すことができない」なんてロジックで対応していない。科学について複数の立場があってもよいとは思うが、石原みたいなのがこぼした発言がニュースになるのが「なんだかなぁ」なんである。