君は薔薇より美しい

あまり役に立たないと思うメディア批評を、今日も続けます。

最近フジテレビで再放送されていた「アンティーク~西洋骨董洋菓子店~」が楽しみでついつい観てしまう。タイにいたときに放映されていたドラマで、観たくてしょうがなかったドラマの一つ。福岡の友人宅で原作のコミックスを読ませてもらってから、ますます興味を持っていた。原作の方は関東に戻ってきてから、近くの漫画喫茶ですぐに読み倒したのだが、久々に僕の中では大ヒット。

さて、このドラマ上述したように原作はよしながふみ原作のコミックス『西洋骨董洋菓子店』Wings comicsで、ドラマでは滝沢秀明、椎名桔平、藤木直人、阿部寛やら、美形俳優がそろっていて放映当時は大人気だったという。確かに脚本も上手いと思う。小雪、えなりかずき、真鍋かをりの配役もすばらしいし、音楽をのすべてをミスチルが担当していて番組全体が一つのリズムを刻んでいて心地よい。

・・・で、だ。

実は原作では藤木直人が演じる天才パティシェ小野は「魔性のゲイ」という設定で、ドラマでは阿部寛が演じる「影」と微妙な関係になる。ドラマでは椎名桔平が演じているオーナーとも原作では高校時代に告白してふられたという設定だ。やおい好きにはたまらない(であろう)抜群の設定だったのだ。

このエピソードは、コミックス版では話の中核となる大切な出来事で、話の展開上はずせないストーリーだ(と僕は読みながら感じていた)。だが、ドラマ版ではすっぽりと抜け落ちていて、藤木の役はノンケの「ちょっと過去がある」人ということに変わっていた。

藤木に同性愛者の役をさせたくなかったのかとも思うが、あかんなぁと思う。原作を曲げてまでドラマ化しなくちゃいけないんならはじめっから、別の物語としてドラマ化すればいいのに。原作者もいろいろ出版社との関係もあるとは思うんだけれども、もっと主張していいんじゃないかなぁ。

まぁどういう事情で原作に手が加えられたのかはわからないのだが、実際まだまだメディアの中ではヘテロ以外の恋愛は描かれにくいのだなぁとは思う。

昔笹野みちるが『Coming OUT!』幻冬舎アウトロー文庫で、このメディアの中ではたとえば同性愛がすべてヘテロに置き換わるというメディアの暴力を書いていた。たとえばa girl meets a girlを描きたい同性愛者の主張がすべてa boy meet a girlかa girl meet a boyに代わってしまうというメディアの暴力だ。

この下りを読んだときに溜飲を下げたものだが、今日でもあまりこの状況は変わっていないように思う。そんなことを考えながら骨董西洋洋菓子店を観た。

で、だ。

薔薇族の復刊が決まったそうで、伊藤文学氏は「高齢化社会で年をとった同性愛者も一人で生きていかねばならない時代」を背景に雑誌をリニューアルするそうである。これは大変目からウロコの発言で、僕自身もまた同性愛者に対して認識が浅かったことを知る。ヘテロセクシャルに老人問題があるように、同性愛者にも老人問題は存在する。こういう声にならない声をくみあげることこそ、インタラクティブなインターネットの世界の強みだったと思う。

堀江氏はメディアミックスでより視聴者のニーズをつかもうとしているそうだが、その流れがマジョリティ(例えば性的なマジョリティとか)のニーズをつかむだけだったら嫌だなぁと思う。これで堀江氏が、例えば性的マイノリティの意見を汲んだ番組を作ってくれれば少しは見直せるんだけれども、なんて思ったり。