世界一長い頭髪の持ち主が死去

ちゆニュースにて、「世界一長い頭髪の持ち主が死去」というニュースが紹介される。この人物は僕の研究しているモン族(Hmong族)ではちょっとした有名人で、「おやおや」と思いながらクリックする。このニュースのリンク先である時事通信社の記事を読んでみて唖然とする。タイの英字紙を適当に翻訳しただけの非常に適当な内容。

【バンコク31日】ギネスブックが世界一長い頭髪の持ち主と認めた、タイの少数部族モン族の男性イー・セータオさんが30日、北部チェンマイ県の自宅で81歳で死去した。イーさんの息子の話として、タイの英字紙ネーションが報じた。(写真は、約4・1メートルの髪を披露するヒンズー教の僧)
同紙によると、イーさんは18歳で村のシャーマンに選ばれて以来、髪を切るのをやめ、頭髪の長さは4.8メートルに達していた。弟のフー・セータオさんが5.15メートルの最長を誇っていたが、昨年、77歳で死亡、イーさんが世界一となった。数カ月前にギネスブック関係者がイーさんを訪れ、2003年版にイーさんの名前を載せることになっていたという。ここ数年は、観光名所となり、多くの観光客が兄弟の家を訪れていた。親戚の者たちはホーさんが死んだあと、大勢の観光客がやってくることに精霊が怒ったためだと言い合っていたという。〔AFP=時事〕(太字は吉井強調)

この記事には2つ大きな問題がある。

1つは、モン族は少数山地民族ではあるが、「タイの少数部族」ではない。これはモン族に対する無知というよりも、タイについての認識がまるで欠けている。この書き方だと、まるで、タイは部族単位で構成されている国家のようではないか。タイ国内のモン族は中国から流入した人々であり、中国、ラオス、カンボジア、ベトナム、ビルマに散在する民族であり、「タイの」部族ではないのだ。
ま、これはともかくとして、2つ目の問題はより深刻だ。この記事に引用されている写真がなぜに「ヒンズー教の僧」なのか。モン族のほとんどはアニミズム崇拝もしくはクリスチャンであるし、タイ国内にもヒンズー教徒は少ない(この写真の髪の長い人物の前に楽器を持っている人物がいるが、彼の持っている楽器はインドの打楽器ドーラクっぽい)。まさか、単に髪の毛が長いという理由だけで、載せたのではあるまいか。時事通信は、たとえば、国会議員の汚職発覚の際に、「国会議員」というだけで、別の国会議員の顔写真を載せるような、そんな無神経なことをするのだろうか。
モン族は決してメジャーな民族ではなく、また、決して日本でよく知られた存在ではないことは確かであるが。しかし、ちょっと調べればすぐにわかるようなこういうミスをどうどうと掲載するところはどうしようもない。まさか、時事通信が配信したこのニュースをそのままの形で写真ごと掲載したバカな地方紙はないとは思いたいが・・・。(8/1)