『東京佼成ウインドオーケストラ60年史』

東京佼成ウインドオーケストラ編(2021)『東京佼成ウインドオーケストラ60年史』新潮社、読了。

タイトルのとおり、日本を代表する吹奏楽団東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)の60年の歴史がぐっと詰まった一冊。総383頁中、150頁の著述と残りほぼ同数頁のデータが掲載。未だ論文として書き上げてはいないが「日本社会と吹奏楽」について考えることも研究の一環としていろいろやっているところもあり、これまでよく把握していない点がわかった。

一番疑問だったのは、「なぜ宗教団体の立正佼成会がなぜこうした楽団を有するようになったのか」という点だったのだがこのプロセスもやっと理解できた。陸軍戸山学校軍楽隊でクラリネットを吹いていた河野貢造氏が昭和23年に立正佼成会に入会し、その後組織した立正佼成会内で音楽隊を組織したとのこと。楽団成立当初は、アコーディオンやヴァイオリンもあったとのこと。また立正佼成会の支援をうけ、プロ吹奏楽団として立ち上がった当初(昭和35年)は、

「発足したはいいものの、未経験者の集まりなので、基礎教育から始めなけらばならなかった。」(p.32)

とのこと。今のTKWOの活躍を見ると信じられないエピソードばかり。吹奏楽コンクールの歴史、課題曲録音の経緯なども端的にまとめ上げられており、TKWOだけでなく、日本の吹奏楽史としても非常におもしろい。

個人的には岩城宏之のコメントも寄せられているのが興味深かった。岩城宏之は、1991年に行われたインタビューで

「ぼくはね、バンドにいいイメージを持ってなかったわけです。ぼく自身学生時代の記憶というか、芸大のバンドのやり方、先生がワーと作って行ってしまう、そういう悪い思い出があって、バカバカしい音楽だと思っていたわけですよ」(p.105)

と当時を述懐しているのを読み驚く。あの『トーンプレロマス55』を振った岩城宏之でもこういう認識だったのか。※なお『トーンプレロマス55』の録音年は1998年で、岩城の認識が改まった後。

ともあれ、日本の吹奏楽史を理解する上で貴重な一冊だと思う。この手の本は売り切れると再版がないのが常なので、気になる方はすぐに購入を。