私の周囲のイチオシアーティストその①Law Fat(まちおん連載15回目)

今年に入って2つ目のお題は「私の周囲のイチオシアーティスト」。おおお、身の回りに結構アーティストっているんですが、それを紹介する場というのがなかなかないんですよね。しかし、、、先に狂さんに大本命のかみもと千春さんを紹介されてしまい、正直「やられた」感が、、、。ううむ。

というわけで、このお題の第一号として、おそらく他のメンバーとかぶらないと思われるバンコクで活躍するハードコアバンドLow Fatを紹介したい。

まずはひとまず映像を。

このボーカルの佐野先生(以下佐野さん)は僕とはタイの大学の元同僚だった。とても人当たりがよく、優しい雰囲気の佐野さんに学内のことを色々と教わり、風土の違うタイの大学に慣れようとしていたころに親しみやすく尊敬できる先輩が学内にいることにとても感謝していた。
そんなつながりがしばらく続いていたのだが、その年の6月の下旬にお会いした際に「実はバンドをやっておりまして」としずしずと渡されたのがLow FatのCDだった。そのジャケットは美大出身のドラマーが書かれたもので、水色のバックにタヌキが跳ぶジャケットを見て「どんな音楽をされているんだろう?」とまったく想像が付かなかった。そんなCDをPCのプレイヤーにかけたところ、流れてきたのは期待を180度裏切るハードコアバンドだった。
正直なところ僕の人生の中で、ハードコアというジャンルを全く聞いたことがなかったため狼狽した。「次に会うときにどう言ってお話しすれば良いだろうか」とハードコアをやっているプレイヤーを褒める日本語の語彙は僕にはなかった。

ところが、その大学に通勤する際に使っていた赤バスに乗りながら聞いていると、なんとなくだけど佐野さんの歌う風景が見えて来た気がした。赤バスと言うのは、タイで1番安いボロボロのバスでエアコンはなく、窓が閉まらず、2015年の使用路線の赤バスはどこまで乗っても3.5バーツ(当時の値段で約15円)と言う破格の値段だった。タイでは徐々にエアコン付きのバスが導入されつつあり、こうした古いタイプの安いバスに乗るのは、現地の人でも物好きな人になりつつあった。

脳天までとろけるような南国特有のむわっとした暑さの中を、いろんな匂いのいろんな人たちを乗せてバスは走る。黄色の布で体をまとったお坊様だったり、花売りだったり、貧しい人々だったり。タイも今はかなり発展しており、かつての発展途上国の面影は減りつつあるのだが、赤バスに揺られながらそういった人々を見ているとこういった風景にLow-fatのバンドの音、でたらめなようで執拗に繰り返されるベースやドラムが、そしてリズムを刻むことで落ち着こうとする楽曲をぶち壊すかのようなギターのインスピレーションプレイが、佐野さんの声がよく合う。人間の四苦八苦を詰めて走る赤バス通勤にぴったりなのだ。

僕はこの分野について全くと言っていいほど無知だったのだが、音楽のリズムやメロディー全てをぶち壊して、その先にある何かに到達できる音楽もあるんだと初めて知った。聖俗が暑さでとろけてシェイクされてぐちゃぐちゃになって、それでも残る「何か」。ああ、そうだった、僕がタイの研究者になろうと思ったきっかけは人間のそんなぐちゃぐちゃな感情と向かい合いたいと思ったからだった。

CDを頂いて、いつもの通り赤バスに乗って登校しようとしていた時、とある仏教寺院の近くのバス停から、背の高い男性が1人飛び乗ってきた。それはなんと佐野さんで、佐野さんはこの赤バスの愛用者だった。そうか、こういう風景が佐野さんの音楽を支えていたのか、などと思い、でもハードコアのプレイヤーを連想させない優しい風貌に何度も驚いたのだった。「音楽は国境越える」と言うが、クラシックやジャズと違い歌詞のある歌謡曲が国境越えるのはどうしても言語の壁がある。その言語の壁をやすやすとLow Fatは越えていく。

ちなみに佐野さんは日本語教師で、こういう先生に外国語は学びたいと思う。

タイには合計5年間住んでいたことになるのだが、その間の心残りの一つがLow Fatの生ライブを体験できなかったことだ。コロナ収束後にはLow Fatのライブを聴くためだけにぜひバンコクに向かいたい。もちろんライブ会場へはLow FatをBGMに赤バスに揺られながら。

都城工業高等専門学校准教授(法学)

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