学校でのSNSの利用とセキュリティ問題

先日高等専門学校機構が開催する「高専フォーラム」という教育研究集会が開催され、その中の1セッションで「SNSを利用したクラス運営と発達障害学生支援」という報告を行った。

CLASSTINGという学級運営に特化したSNSがあり、それを利用した学級運営の半年の経験を事例報告として報告した。CLASSTINGでは、学生に連絡を行い、質問を受け付けることも可能であり、またクラス内の雰囲気を写真や動画で伝えることができる。LINEなどと異なり、メンバーの追加・削除については管理者である教員だけが可能で、いわゆる「LINEいじめ」みたいなものが生じず、また学生が傷つくようなNGワードの入力ができないといった機能を備えている。実際に「アクティブスポーツ」という保健体育の教科書を持ってくるよう学生に指示したところ、「アクティブスポーツ」という「ブス」の文字がNGワードになったため、「アクティヴスポーツ」とタイトルを変えてメッセージを送った。

もちろん学生の写真使用に関しては、肖像権の絡みがあるため、4月の段階で保護者に許可をとっている。特性のある学生だけでなく、保護者ともテキスト化された文章を共有できるメリットは大きく、今のところ非常に有効に機能している。今のところ学生からは好評な様子で、特に保護者からは、「これまで妻にまかせていた子どもの教育がつぶさにみれて嬉しい」というコメントや「学校での様子(写真)を観れて嬉しい」といったコメントももらった。

発表についても実際に参加された方から会場の雰囲気を聞いたが決して悪い反応ではなかったようだ。だが、そのプレゼンテーション終了後に文字ベースのpadletを用いて意見交換が行われたのだがその場での議論は少し荒れた。その匿名の書き込みはすでに削除されたが「特異な指導法」と言われてしまった。

現在もpadlet上に残るそれらの非難めいた質問の文章を直接引用することは避けるが、

・こういった新しいサービスを使おうとする方々はセキュリティについて考えているようには見えない
・機構が採用しているOffice 365やBbはセキュリティがしっかりしているのになぜそちらを使わない

という反応があった。

当方の理解では、まずこの質問者が述べる「Office365とBbがしっかりしている」という評価がまず共有できない。先日のOffice 365をめぐるトラブルにしても、機構のミスというよりもどのクラウドサービスもそれぞれのレベルで安全性についての問題であると思うし、むしろ「○○は大丈夫」という考え方のほうが問題だと思う。運用面での問題としかいいようがない。

加えて、現在当方が使用しているCLASSTINGが、Office 365よりも優れているというつもりはない。おそらくOffice 365と同様のセキュリティの問題はあると思う。コンピュータの技術は、作り手の意図を離れたところで動いていくものでセキュリティを仕様書で語ることには疑問しかない。だが、例えばペーパーベースで電話連絡網を作成しても、学級通信に写真を掲載しても「個人情報云々」で叩かれる世の中で、どんな形であっても完璧なセキュリティなどはないと思った方がよいと思う。

そして、その上で機構本部からは発達障害を有する学生の支援要請に対しては、CLASSTINGを利用することがベストではないにせよ、現在の忙しい校務の中ではCLASSTINGという手法を使う以上に、学生に細かいフォローを与える手段がない。同様の事をOffice 365でやろうとすると、とんでもなく時間がかかるばかりかおそらく当方が担当するクラスの学生には利用が難しい。何よりも、様々な特性をもった学生のフォローを現在の激務の中で行うのは不可能であると思われる。もちろんのことながら、同様の質問を聞かれるのは当然想定していたので、当方としてはそのたびに同じ説明をするしかない。

CLASSTINGの選定にあたっても無条件に採用したわけではない。すでに知られているようにソフトウェアやクラウドサービスの選定についてはSLCP-JCF2013というガイドラインがあり、今回の例ではCLASSTINGという一つのサービスを利用するにあたって、「そういうサービスがあるから利用した」のではなく、報告したとおり、しかるべきガイドラインの選定基準にのっとって複数のサービスから選定した。他の発表された先生方についても「役に立ちそうなサービス」に飛びついたわけではなく、考慮の上でそれらのサービスの一長一短を踏まえた上で選んだのだと当方は理解した。が、それでも「考察が欠けているような気がした」という「セキュリティ問題至上主義」の方の反論はpadlet上で続いた。

誤解されると困るのだが、我々がやりたいのは「特定のサービスを使いたい」のではない。単に「学生支援をしたい」だけで、それに適した方法があるなら、なんだって使いたいのだ。目の前の学生に僕の時間を割くことで、支援できるのなら喜んで僕は時間を割こうと思う。ただ「必要な情報を印刷して渡す」ということすら、今の業務の中ではできない現状で、また複数の学生に同じ時間を割けない状況の中では、CLASSTINGはベストな解決法の一つであることは間違いない。

実はこのCLASSTINGについて、他の先生方に積極的に勧めるつもりはない。ただ、なんらかの形で論文にまとめようと思ってはおり、それについて関心をもっていただき、導入のアドバイスが必要な場合はそれに応えようとは思う。きっと、これまでにも多くの発達障害を持つ学生は高専内にいたわけで、それらの学生に対してそれぞれの先生方がノウハウを持っていて接していたと思う。例えば同僚のお一人は、学生の保護者に毎日のようにお電話をされているし、またある先生は(その方がおっしゃるには)「あえて放置する」というやり方をされておりその分LHRなどで細かい指導をされていたようだ。「ICTを利用した指導」というのは、自分にとって得意な手法の一つだったということにすぎない。自分に得意な手法があればそれを使ったが、学校全体で取り組むことで「セキュリティ云々」とおっしゃる方がでてくるのも事実であり、こういう活動は「やれる教員だけ」やっていくしかない。

「セキュリティリスクを無視する」というわけではない。何よりも今年始まったばかりの本格的な発達障害学生支援の中で皆が手探りの状態なのであり、おそらくどの学校でもこのあたりは全てグレーゾーンであり、決して「セキュリティの問題があるから」と単に切り捨てられる話でもない。「セキュリティ至上主義の方々」にも立場はあるのだろうが、それを語ったうえで「何もしない」または「ICTを利用したほうが効率的に処理できることを無理矢理辞めさせる」のではそれこそ「何も解決しない」。発表者でそう思ったのは僕だけではないだろうと思う。

また、その高専フォーラムの際に他の高専の先生がメールでの連絡よりもSNSでのほうが学生との共同作業が進むことを指摘していた。僕自身も最近はSNS上の連絡で仕事を依頼されることが非常に多くなってきており、いろんな会社で言われているという「業務に関係のないサービスを使用しないで下さい」という文言にFacebook/Twitterが含まれるのかどうかは微妙なところだと思う。業務に関係のない書き込み(僕の場合は社会科学関係や部活関係外の書き込み)は慎もうと思うが実はその線引きも大変難しい。市民運動研究やタイの政治研究でTwitterやFacebookを使わないなんてとても想定できない。また自分自身が発信することも当然ながら研究者としての意義の一つだと思えるので(言うまでもないが加藤哲郎先生のWebなどもそうだと思う)、そして、学生への細かい指示はFacebookのメッセンジャーが一番マシなのも事実で、実際にFacebookの繋がりがなければ解決しなかった学生指導上の事案もいくつかあって、もはや「業務とSNS」の関係はなかなかに難しい。

「業務にSNSを使うだなんて」と目くじらを立てる時代ではない、としか僕にはいいようがない。セキュリティ至上主義者の立場もわからなくはないが、歩み寄りの場所を探すのはなかなかに難しいと思う。

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