ウクライナと音楽(まちおん連載23回目)

今回のお題は「私の周囲のイチオシアレンジャー」だったのだが、事態が事態なので、急遽お題を(勝手に)変更して書いています。

日本時間の2月25日早朝より、ロシアがウクライナに侵攻を開始した。翌26日にはキエフ近辺まで進軍し、首都への攻撃が始まった。この原稿を書いている28日の朝の段階で、ロシアの大統領府は、ウクライナからの和平交渉の呼びかけを受けて、プーチン大統領は25日、一時進軍停止を命令したとする。だが、ウクライナ側が交渉を拒否し、進軍を再開したとのこと。もちろん、これはロシア側の主張で、AP通信の報道だと会談場所をポーランドに設定したいウクライナ側と親ロシア派のベラルーシに設定したいロシア側との間で調整が進んでいないようだ。現在ウクライナの首都キエフでは、ウクライナ軍の反撃が強くロシア軍は30km離れた地点から近づけていないと報道されている。

ウクライナの首都キエフといえば、クラシック好きなら、ムソグルスキーのピアノ組曲「展覧会の絵」の最終曲が「キエフの大門」として名高い。現在はモーリス・ラヴェルによるオーケストレーションも盛んに演奏されるようになっており、吹奏楽にも編曲されている著名な曲だ。最もムソグルスキーは友人のヴィクトル・ハルトマンが描いた絵画から着想を得たものにすぎず、実際にキエフの大門を観たわけではなかったらしい。

・Khatia Buniatishvili – Pictures at an Exhibition – The Great Gate of Kiev

※Khatia Buniatishviliはウクライナ同様に旧ソ連から独立したグルジア出身のピアニスト。

この「キエフの大門」を築いたのはキエフ大公国である。キエフ大公国は、紀元前からのルーツをもつ国家であったそうだが、モンゴル帝国の侵攻により領土が破壊されたのち欧州諸国の割譲に遭ってその後の国家分断の非業の歴史をたどる。ロシア革命時には、活発な独立運動が展開され、1917年にはウクライナ人民独立共和国が宣言されるが、新国家ソビエト連邦は独立を許さず、ソビエトの一部となってしまう。反発するウクライナ人を抑圧するために、様々な民族弾圧が旧ソビエト連下で行われた。中でも1983年のスターリン時代には、家畜や農地を奪われたことに起因するホロドモール(олодомо́р人工的に引き起こされた大飢饉)によって、400万人から1,450万人ものウクライナ人が死亡した。現地にはホロドモールの博物館もあり、シンボルとして作られた痩せた少女の銅像が痛々しい。

・HOLODOMOR SCULPTURE DESECRATED IN KYIV

こうした歴史を知っていれば、1991年にソビエトの解体によって独立を勝ち取るまでにウクライナの人々がどれだけ独立を渇望しており、そしてなぜに強く反発しているのかが多少なりともわかるのではないか。

現在手元で確認できる報道だと、ロシア軍は25日中にはチェルノブイリ原発を占拠したとのこと。ソ連時代に建設され、運用されていたチェルノブイリ原発は、1986年に爆発事故を起こし、周辺地域は現在も立ち入り禁止処置が続いている。そのチェルノブイリ周辺では、放射線量が上昇したとウクライナ当局は説明する。旧東欧諸国において原子力発電所が建設されることによって生じるパワーバランスについてはまた別の頁で触れたいが、この原発事故は日本の音楽シーンにも影響を与えている。

チェルノブイリ原発事故の後、タイマーズ(RCサクセション)は1988年に「原発賛成音頭」「メルトダウン」を発表し、1991年にはTHE BLUE HEARTSがそのままずばりのタイトルの『チェルノブイリ』を発表する。そして1999年にRCサクセションはアルバム『カバーズ」にて日本の原発政策を皮肉る「サマータイムブルース」を発表する(Youtubeにアップされているのはいずれも、著作権に反しているため、リンクは貼りません<貼らないでください)。ここまで直接的に原発政策を批判した歌は、もうなかなか現れないだろうと思う。唯一の例外は2011年の福島第一原子力発電所のメルトダウンを歌った斉藤和義の「ずっと嘘だった」なのだが、本人がYoutubeでその投稿を削除しているのをみても、相当に圧力はあったのだろうか、などと素人でも思ったりする。

日本で生きる我々もそれぞれに心を痛めて迎えた今週の始まり。今回のウクライナについて、音楽家によるリアクションがあるのだろうか。事態がこれ以上悪化しないように祈りつつ、この一週間を過ごそう。

富山大学学術研究部教育研究推進系准教授

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