この1週間のこと

 

この1週間ほど、追い込み中の家庭教師先へとお邪魔していた。大学入試しか経験していないとまるでわからないだろうが、中学入試は大変なハードスケジュールで行われ、1週間の内にほとんどの中学の入試が重なり、また合格発表が1時間のみでその間に入学手続きを終えなくてはならず、また午前中試験で午後には発表というところも多い。そのため2校3校と受験する生徒さんのご家庭では生徒はもちろんご両親も大変忙しい。(<ちなみにっておくと、「両親がそろっている」ことが中学入試の要綱に記載されているわけではないのだが、事実上2人の大人がついて回らないと成り立たないほど、現在の中学入試はハードスケジュールだ)

ところが、この時期に家庭教師先のお父さんが仕事で関東を離れることがきまり、僭越ながらお手伝いさせてもらうために一週間近く泊りがけで指導と手続きのお手伝いをさせてもらう。家庭教師中のおつきあいの中で、お父さんも家族をとても大事にする方だと知っていたので、どんなに後ろ髪を引かれる思いで出張に出られただろうと思う。

無論僕は「バイト」という立場でしかないのだが、教え子の受験というのはもうバイトを超えたつながりで、損得勘定を抜きにして生徒さんのゴールする姿を見たくなるのだ。また僕にとっては最後の家庭教師となる生徒さんのゴールを見届けて10年以上も関わってきた自分自身の仕事の総仕上げをしたかった。

結果からいうと、生徒さんは彼をちゃんと評価してくれる中学校に合格した。はじめの志望校とは異なるけれど、それでもちゃんと彼を評価してくれる学校と出会うことができた。翌日の受験もあったので合格発表は、友人のA君に行ってもらったのだが、A君から合格の報が届くと生徒さんもお母さんも生徒さんも泣き出す。出張先のお父さんも大泣きだったようで、電話口のA君ももらい泣きしたそうだ。

一日あけて、残っていた最後の入試が終わる。当日発表の入試結果を横浜のネットカフェで見る。最後の受験結果を伝えたとき、お母さんが「先生は家庭教師ではなく、家族です」と言い、生徒さんが「おっちゃんまた来てね」と泣きながら伝える。横浜の雑踏の中で泣きながら歩く。手に持った携帯電話を持つ右手が痛い。改装中のビルの間、人混みも多い空も見えない饐えたにおいがする路地裏を泣きながら僕も歩く。雑踏の中でこんなに人がたくさんいるのに僕が一番近かったのは、携帯電話の先の生徒さんとお母さんだった。

最後の家庭教師は涙、涙のうちに幕を降ろした。

思えば僕が担当した家庭教師の子供たちはもう30人ぐらいになるだろうか。有名大学に進学した子もいれば、すべて落ちて途方にくれた子もいたし、僕とまったくそりがあわず、3日でクビになったこともあった。ただ、どの子供たちにも大変多くのことを学んだ。今回もまた多くのことを学んだし、何よりも焦燥しきった去年の夏この家庭に出会わなかったら僕もまた命を落としていただろう。

運命は不思議だ。ちゃんと出会うところで出会う人と会い、そして次のステップに進める。

まぁ、家庭教師生活もこれでおしまいだ。最後の生徒も無事に送り出した。企業内教育という学校教育とさほど遠くないセクションに働くとはいえ、もう家庭教師などを通して生き方を見つめるような授業を行うことはないのだなぁと思う。

神様、こういった恵みの多い職業を10年間も僕に与えてくださったことを感謝します。

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