「多美歌」という駅の話

 

「歌」をめぐるお話。-学会報告のためシンガポールに行ってきた。タイにはよく行くのだが、シンガポールにはトランジットでの乗り換え経験しかなく、初めて町の中を歩きまわる。シンガポールの治安の良さは聞きしに勝るものであった。タイではよほど変なところでなければ、どこに行っても安心して過ごせるのだが、初めての国で加えて英語圏で言葉がどこでも通じるのはほっとした。学生も一緒だったのだが、初日より安心して別行動。「お互い好きなように回ろう」と、僕の方は安心して植民地時代の古い建物や教会、そういった歴史的建造物の美しい街並みに感激しながら4時間ぐらい炎天下の中を歩く。とはいえ、観光名所も見ておこうととりあえず「世界三大がっかり」といわれている「マーライオン像」も訪ねる。だが僕にはそれほど「がっかり」ではなかった。上野の西郷さんのほうがよっぽどがっかりだと思うのだが。

まぁそれはさておき、最高裁判所などのコロニアル調の建物をめぐり、シンガポール国立博物館を見学しそれからMRT(都市交通)を使って大満足のうちホテルへの帰路につく。その時使用した駅の名前は「Dhoby Ghaut」中国系が多いシンガポールでは、英語表記の隣に中国語表記で「多美歌」と表記がしてあった。古い町並みの美しさに心打たれ、古い教会をいくつかみてきたばかりだったので、その漢字のとおり「多くの美しい歌」に由来する街なのだと思って、とても神妙な心持ちになった。ひょっとしたらこの通りには聖歌隊の声が響いていたのだろうか、などと思ったり。だがホテルに戻り、ネットで調べると実際はヒンズー語で「洗濯場」を意味する言葉であった。マーライオンよりもこちらのほうがよほど僕には「がっかり」であった。

海外の学会ではよくあるのだが、すべてのプレゼンテーションが終了して簡単な(時に豪華な)パーティーが開かれることが多い。このシンガポールの学会でも例にもれず、盛大なパーティーで終了。このとき同じテーブルだったシンガポールの主催者側の方に(実は結構偉い先生だったと後ほど知るのだが)、「シンガポールをどう感じたか」と聞かれ、上記の「多美歌」の駅名に関するエピソードを語る。そのときに「なぜそんなことがおまえは気になるんだ?」と言われ、つい「いや実は、カトリック教会の聖歌隊にいたので、この漢字の意味にとても惹かれたのだ」という話をする。と、そのあとなぜかその偉い先生が、司会者と打ち合わせをして、「本日のスペシャルゲスト」として、みなさんの前で一曲歌う羽目に。なんの前触れもなく、100人近いオーディエンスの前でである。とにかく、ゆっくりとした発音で歌える歌ということで、はずかしながら「ふるさと」を歌う。拍手はもらえたが、でも決して自分でよいできではないと思ったので、本当に申し訳ない。「多美歌」の話が「小醜歌」でオチがついてしまい、ほかの日本からの参加者には、マーライオン並に「がっかり」しただろう。

今回のシンガポール-日本の往復は、すべてANAを利用。これまでも国内線での出張の際はたいていANAを利用し、搭乗するとすぐにスカイオーディオの落語(10ch)にチャンネルを合わせ、空の旅をやりすごす。ANAの機内誌は読まないのが普通だった。国際線はやたら時間が長いので、落語を聞き終えて、いくつかチャンネルを変えてみると、なんと松下耕先生が合唱のチャンネルをしていたことを発見。9月には何度も飛行機を利用したのに、気がつかなかった。そのまま聞き続けると、海外の有名な合唱団の録音はもちろん、「信じる」や「大地讃頌」などの日本語のすばらしい合唱曲も聴くことができた。ANAだけでなくJALも国際線では、これから日本にやってくる方々のために、こうした美しい日本語の歌をもっと流せばよいのに、と思った。-日本に帰ってきて、山崎まさよしとアンジェラアキが歌っているユニクロのCMを視聴した。山崎まさよしとか、アルバムを何枚か買い求めたりしていたので、決してそう嫌いなシンガーではないのだけれど、「浜辺の歌」の音の切り方が気になる。「明日浜辺をさまよえば」の「さまよえば」の「ま」と「よ」のあたりで切れるところとか。山崎まさよしの歌はそれはそれですごく好きなのだけれど、「美しい日本の歌」ももっと聞く機会がほしいと思った。

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